東京高等裁判所 昭和25年(う)4638号 判決
原判決の挙示する盜難被害届の提出者田中健児が、代理人名義をもつて右被害届を提出していることは洵に所論の通りである。然し乍ら、それだからといつて直ちに、右被害届が被告人の自白を補強する所謂罪体の証拠とするを得ないわけのものではない。要は、その記載内容が所謂罪体を証明するに足るものがあるか何うかにかかる。これを右被害届の記載内容についてみるのに、その提出者田中健児は、原判示盜難の際、何人かが原判示加来弘所有の備付用ラジオ一台を原判示場所に停車中の自動車の中から盜み去つた事実を現認したものであることが窺われ、而もその記載内容は全く原判示盜難発生当時における事件そのものの渦中における人物の陳述であつて、単なる伝聞的陳述とはその性質を異にするものであるから、仮令代理人名義をもつてした被害届ではあつても、これをもつて窃盜の罪体の証明として必ずしも不充分であるということはできない。従つて原判示事実を自認した被告人の自白を補強する証拠として代理人田中健児の盗難被害届を採用したことは採証の法則に反する違法ありとする所論は採用し難い。論旨は理由がない。